猫の尿路結石は、飼い主様の間でも「よくある病気」として認識されていますが、その実態はもっと深刻です。
「何度も何度もトイレに行く」「尿量が少ない」「トイレ以外で粗相をする」──こうした症状に直面した飼い主様は、往々にして「また結石か…」と軽く考えがちです。しかし、放置すると尿道閉塞(尿が出なくなる)に進行し、数日で腎不全から死亡に至るという極めて危険な状態になる可能性があります。
本記事では、猫の尿路結石の初期症状、自宅での対処法、そして**「これは自宅で様子を見ていい」と「すぐに来院すべき」の判断基準**を、飼い主様にもわかりやすく解説します。
目次
1.猫の尿路結石とは何か
基本的な理解

尿路結石とは、尿中のミネラル(マグネシウム、カルシウムなど)が結晶化し、膀胱や尿道に沈着した状態です。
正常な状態:
ミネラル → 尿に含まれたまま体外へ排出
尿路結石:
ミネラル → 結晶化 → 膀胱内に沈着
↓
尿の流れが悪くなる
↓
症状発現
猫が尿路結石になりやすい理由
猫は犬や人間と比べて、尿路結石になりやすい動物です。
理由①:尿が濃い
└─ 猫は水分摂取が少ないため、尿が濃くなりやすい
→ ミネラル濃度が高い
理由②:尿道が狭い
└─ 特にオス猫の尿道はペニスの先で著しく狭くなる
→ 結石が詰まりやすい
理由③:尿のpH値が変わりやすい
└─ 食事内容によって尿のpH値が大きく変動
→ 結晶化しやすい環境を作る
尿路結石の種類
ストルバイト結石(最多)
├─ 成分:マグネシウム+アンモニア+リン酸
├─ 原因:感染、尿のpH値上昇
└─ 特徴:治療・予防が比較的容易
シュウ酸カルシウム結石
├─ 成分:カルシウム+シュウ酸
├─ 原因:遺伝、食事内容
└─ 特徴:ストルバイト結石より予防が難しい
その他:尿酸塩、リン酸カルシウム
2.初期症状の見分け方
尿路結石の主要な症状
| 症状 | 意味 | 重要度 |
| 頻尿(何度もトイレに行く) | 膀胱の不快感により頻繁に排尿 | ★★★★★ |
| 排尿困難(トイレで苦しそう) | 結石により尿道が刺激される | ★★★★★ |
| 血尿 | 粘膜の損傷によるもの | ★★★★ |
| 尿の減少 | 尿道が部分的に塞がっている | ★★★★★ |
| トイレ以外での粗相 | 膀胱の不快感、尿道閉塞の前兆 | ★★★★ |
| 陰部の過剰舐めなめ | 痛みと違和感 | ★★★ |
「様子を見てもいい」症状vs「すぐに来院」症状
様子を見てもいい症状(自宅対応可)
✓ 頻尿だが、排尿できている
✓ 元気がある、食欲がある
✓ 尿の量は少ないが、1回は出ている
✓ 症状が出たのは初めてではなく、以前治療した既往がある
✓ 症状が出始めて数時間以内
→ 一旦自宅で様子を見て、 症状が改善しなければ 翌日の診察を予約
すぐに来院すべき症状(緊急対応)
✗ 何度もトイレに行くのに、尿がほとんど出ない・出ない
✗ 苦しそうに鳴きながら排尿しようとする
✗ 元気がない、食欲がない
✗ 嘔吐がある
✗ 触られるのを嫌がる(腹部痛み)
✗ 呼吸が荒い
→ すぐに来院(夜間は救急対応)
3.緊急時の判断基準

尿道閉塞の危険信号
特にオス猫の場合、最も注意すべきは「尿道閉塞」です。
尿道閉塞の進行プロセス:
0~12時間:
└─ 排尿困難、頻尿
飼い主様:「また結石かな…」と様子を見ている可能性
12~24時間:
└─ 尿がほぼ出ない
膀胱が拡張開始
尿毒症が始まる
24~48時間:
└─ 尿が全く出ない
膀胱が極度に拡張
腎機能が悪化
嘔吐、無気力が顕著
48~72時間:
└─ 尿毒症が重篤化
脳浮腫、低カリウム血症
→ショック→死亡のリスク
【重要】
尿道閉塞後、医学的対応がない場合、
3~5日で死亡する可能性があります。
緊急判断チェックリスト
以下のうち、1つでも当てはまれば、すぐに来院してください。
□ トイレに何度も行くが、ほとんど尿が出ていない
(便で測定:通常は1回5~10ml以上、緊急時は数滴程度)
□ 排尿時に大きく鳴いている
(「にゃぁぁぁ」という声ではなく、「ギャぁぁ」という苦痛の声)
□ トイレから出た直後も、不安そうにぶらぶらしている
□ 食欲がない、嘔吐している
□ 腹部(特に後ろ寄り)を触ると、極度に硬く張っている
□ 呼吸が速い、または荒い
□ ぐったりしている、反応が鈍い
4.自宅での応急対処法
すぐにできる対応(症状が軽微な場合)
対応①:給水量の増加

方法:
– 給水ボウルを複数設置
– 循環式給水器を使用(流れる水を好む猫が多い)
– 温かい水を複数ポイントに配置
– ウェットフードの給与を増加
効果:
– 尿を薄める
– 排尿回数を増加させ、結石排出の可能性を高める
対応②:ストレス軽減
環境設定:
– 静かな場所を確保
– 多頭飼いの場合、
他のペットから隔離
– トイレへのアクセスを容易に
(段差をなくす、複数設置)
理由:
– ストレスは症状を悪化させる
– リラックスすることで、
排尿が促進されることもある
対応③:医学的サポート
実施できることはない、と理解する
※ 市販の「尿路結石対策サプリ」等は
非推奨です
医師の指示がない限り、
食事管理以外は避けるべき
医学的対応が必要な場合
尿道閉塞の疑いがある場合、自宅対処は命取りになります。
緊急対応が必要な場合:
① 初期評価
└─ 尿検査(結石の種類確認)
画像検査(CT、レントゲン)
② 導尿(尿道カテーテル挿入)
└─ 詰まった尿道に
カテーテルを通す
→ 尿の排出を促す
→ 腎臓機能の改善
③ 入院・輸液管理
└─ 尿毒症の治療
電解質異常の補正
キャロッセ不全予防
④ 薬物療法
└─ 抗炎症薬
筋弛緩薬(尿道平滑筋の弛緩)
5.医学的対応と治療法
急性期の治療
尿道カテーテル(導尿)について
多くの飼い主様が「カテーテルを入れるのは苦しいのでは…」と懸念します。
実際のところ:
カテーテル挿入自体:
└─ 数分の処置
局所麻酔で対応
ペットは苦しくない
カテーテル留置中(1~3日):
└─ 不快感あり
しかし、「尿毒症での苦痛」と比べれば遥かに軽微
カテーテル抜去後:
└─ 多くのペットが急速に回復する
慢性管理
食事療法の重要性
ストルバイト結石の再発予防食:
特性①:マグネシウムが低い
└─ 結石形成に必要なマグネシウムを制限
特性②:尿のpHをコントロール
└─ 結石が形成されにくいpH値に調整
特性③:水分を増加させるよう設計
└─ ウェットフードの推奨または水分補給の促進
推奨フード例:
– ロイヤルカナン 「ユリナリーS/O」
– ヒルズ 「c/d」
– プロプラン 「UR」
医学的管理
定期検査:
– 3ヶ月ごとの尿検査
– 6ヶ月ごとの血液検査
– 超音波検査で再結石の確認
薬物療法(必要に応じて):
– 尿酸化薬(尿のpH低下)
– 筋弛緩薬(尿道の緊張軽減)
6.再発予防のための食事管理

水分摂取の重要性
理想的な水分摂取:
体重1kgあたり50ml以上/日
例:体重4kgの猫
└─ 1日200ml以上の水分摂取が望ましい
実現方法:
✓ 循環式給水器を設置
✓ ウェットフード比率を上げる
✓ スープを与える(塩分なし)
✓ 複数の給水ポイントを設置
✓ 温かい水を提供
フード選択のポイント
ドライフード vs ウェットフード
ドライフード(一般的):
– 水分含有量:10%程度
– メリット:保存性、利便性
– デメリット:水分不足のリスク
ウェットフード(推奨):
– 水分含有量:70~80%
– メリット:水分摂取の増加
– デメリット:保存期間が短い
結論:
尿路結石既往のある猫にはウェットフード(または混合給与)が推奨されます。
ライフステージ別の対応
結石既往のあるオス猫:
└─ 生涯、結石食の給与が必要
定期的な検査(年1~2回)
初回結石の猫:
└─ 少なくとも1年間は結石食の給与を継続
その後、通常食への変更を検討
複数回再発する猫:
└─ 生涯結石食給与、または手術(尿道造瘻)を検討
7.飼い主様の不安への対応
よくある質問への回答
Q1:「再発する可能性は?」
A:結石既往のある猫は、生涯、再発のリスクを抱えます。
統計:
– 第1回発症後、1年以内の再発率:50%程度
– 予防食+定期検査で再発率:15~20%
→ 食事管理と定期検査の重要性
Q2:「外出中に症状が出たら?」
A:
① 症状に気づいたら、すぐに病院に連絡
② 夜間・休日の場合、救急対応できる病院に搬送(事前に確認しておくことが重要)
③ 2時間以上症状が続く場合、迷わず搬送(夜間でも)
Q3:「手術という選択肢は?」
A:複数回再発する場合、「尿道造瘻手術」が検討されます。
内容:
└─ 尿道を膀胱と直接つなぎ、尿道の狭い部分をバイパス
メリット:
└─ 再発リスクの大幅軽減
デメリット:
└─ 手術費用が高い(数十万円程度)
合併症の可能性
飼い主様の心理的サポート
「何度も何度も結石になって… 申し訳ない気がする」という飼い主様の心理
対応:
「これは飼い主様の責任ではなく、 猫の体質です。適切な食事管理と定期検査により、 再発リスクは大幅に低減します。一緒に管理していきましょう。」
8.まとめ
猫の尿路結石:最重要ポイント
初期症状の認識
多くの飼い主様は、「また結石か…」と軽く考えてしまいます。しかし、症状が出ている時点で、既に医学的対応が必要な状態です。
緊急判断の基準
「尿がほとんど出ない」という症状が見られたら、迷わずすぐに来院してください。尿道閉塞は、数日で死亡に至ります。
再発予防の戦略
① 食事療法(結石食への変更)
② 水分摂取の増加
③ 定期的な検査(尿、血液、画像)
④ ストレス軽減
これら4つの組み合わせにより、再発リスクを大幅に低減できます。
動物病院の役割
飼い主様への継続的な教育と、定期的な検査・指導が、猫の尿路結石予防の鍵となります。
初回発症時の丁寧な説明が、その後の管理の質を大きく左右するのです。
本記事を参考に
動物病院経営ラボでは、猫の尿路結石に関する、
- 飼い主様向けパンフレット設計
- 「急性期」vs「慢性管理」の段階別ガイド作成
- LINE・メールでの再発予防アドバイス配信システム
- ホームページの「尿路結石情報」専用ページ制作
などのサポートを提供しております。
「尿路結石患者が多いが、飼い主様の理解が低い」「来院しない飼い主様が多い」「再発予防の指導に手が回らない」
このようなご相談は、ぜひお気軽にお寄せください。
猫の尿路結石による緊急事態を予防し、飼い主様の意識向上を実現するための、実践的なコンテンツ制作をサポートいたします。
