深夜2時、ペットが突然嘔吐を始めた。日曜日の午後、いつもと違う呼吸をしている。こうした時、飼い主様の判断は極めて難しいものです。
「すぐに救急車を呼ぶべき?それとも月曜日まで待ってもいい?」
この判断を誤ると、命に関わることもあります。反対に、過度に心配して不要な来院をすることもあります。問題は、飼い主様は「どの症状が危険か」を医学的に理解していないということです。
本記事では、「今すぐ来院が必要な症状」「1~2時間以内に来院すべき症状」「翌日でもいい症状」を、医学的根拠とともに明確に分類します。深夜・休日の判断基準として、飼い主様が正確に対応できるようになります。
目次
- 緊急度の判定基準
- 即座に救急対応が必要な症状
- 1~2時間以内の来院推奨症状
- 翌日の診察で対応可能な症状
- 症状別の医学的背景
- 深夜・休日の判断フローチャート
- 飼い主様への情報発信方法
- まとめ
1.緊急度の判定基準
緊急度の3段階分類

医学的に、ペットの症状は3段階に分類できます。
緊急度レベル1:即座に救急対応
└─ 数時間以内に命の危険がある
判断:迷わず救急車を呼ぶ、
最寄りの救急病院へ
緊急度レベル2:1~2時間以内の対応
└─ 当日中の診察が必須
判断:営業時間内なら病院へ急行
営業時間外なら救急病院への相談を
緊急度レベル3:翌日以降の診察
└─ 緊急性はない
判断:通常の診察予約で問題なし
ただし、症状悪化時は即座に相談
判定時の「黄金の3分間」
症状を確認したら、まず3分間で以下を評価します。
確認項目1:意識はあるか
└─ なし → 即座に救急対応
確認項目2:呼吸をしているか
└─ していない、または極度に荒い
→ 即座に救急対応
確認項目3:体温は極度に上下していないか
└─ 高度な低体温(35℃以下)
または高体温(40℃以上)
→ 即座に救急対応
確認項目4:出血や明らかな外傷があるか
└─ 大量出血 → 即座に救急対応
2.即座に救急対応が必要な症状

以下のいずれかが当てはまれば、迷わず救急対応を選択してください。
呼吸器系の危機的症状
症状1:呼吸ができていない、または極度に浅い
医学的背景:
└─ 気道閉塞、重度肺炎、気胸などの可能性
脳への酸素供給が途絶える危険
対応:
└─ 即座に救急病院へ
移動中も酸素供給を試みる
可能なら酸素マスクを用意
症状2:チアノーゼ(舌や歯肉が青紫色)
医学的背景:
└─ 血液中の酸素が極度に低下している
心肺停止の前段階
対応:
└─ 即座に救急対応が必須
循環器系の危機的症状
症状1:意識がない、反応がない
医学的背景:
└─ ショック状態の可能性
脳血流が極度に低下
脳障害が進行中
対応:
└─ 即座に救急対応
移動中も呼吸確認
症状2:脈が触知できない、または極度に弱い
医学的背景:
└─ 心臓が正常に拍動していない
多臓器不全の危機
対応:
└─ 心肺蘇生の準備をしながら
即座に救急病院へ
症状3:大量の出血が止まらない
医学的背景:
└─ 出血性ショック
失血死のリスク
対応:
└─ 清潔な布で圧迫しながら
即座に救急病院へ
神経系の危機的症状
症状1:痙攣(けいれん)が止まらない
医学的背景:
└─ 重度の脳障害、てんかん重積状態
脳ダメージが累積中
対応:
└─ 即座に救急対応
痙攣中は物を咥えさせない
頭部を保護
症状2:異常な行動、著しい意識障害
医学的背景:
└─ 中毒、脳炎、脳血管障害など
神経機能が著しく障害
対応:
└─ 即座に救急対応
消化器系の危機的症状
症状1:繰り返す嘔吐で水も受け付けない
医学的背景:
└─ 腸閉塞の可能性
脱水が急速に進行
対応:
└─ 即座に救急対応
3~4時間で重篤化することもある
症状2:腹部膨張が著しい、激しい腹痛
医学的背景:
└─ 胃拡張・捻転症(特に大型犬)
胃破裂のリスク
対応:
└─ 即座に救急対応
この疾患は30分ごとに死亡リスクが上昇
その他の危機的症状
症状1:過度な体温上昇(40℃以上)
医学的背景:
└─ 熱中症
脳障害、多臓器不全へ進行
対応:
└─ 即座に救急対応
移動中も冷却を継続
症状2:急性の麻痺、後肢が動かない
医学的背景:
└─ 脊髄梗塞、椎間板ヘルニア急性悪化
神経ダメージが進行中
対応:
└─ 即座に救急対応
脊髄ダメージは時間とともに悪化
3.1~2時間以内の来院推奨症状

翌日まで待てない症状です。営業時間外の場合は救急病院への相談を推奨します。
嘔吐・下痢関連
症状:嘔吐が3回以上、または嘔吐に下痢を伴う
対応期限:1~2時間以内
医学的根拠:
└─ 脱水が進行している可能性
原因が腸閉塞などでないか確認が必要
対応方法:
└─ 営業時間内なら病院へ
時間外なら救急相談
症状:便に大量の血液(黒いタール状)
対応期限:1~2時間以内
医学的根拠:
└─ 消化管出血の可能性
大腸菌感染症など危険な疾患も考慮
対応方法:
└─ 即座に病院に相談
排尿・排便の異常
症状:排尿しようとするが尿が出ない(特にオス猫)
対応期限:即座から1時間以内
医学的根拠:
└─ 尿道閉塞
腎不全へ急速に進行
12~24時間で死亡のリスク
対応方法:
└─ 即座に救急対応
待つことは命に関わる
症状:血尿、排尿困難が持続する
対応期限:1~2時間以内
医学的根拠:
└─ 尿路感染症、結石など
原因確定と対応が必要
外傷関連
症状:交通事故などの外傷後、
歩き方がおかしい、痛がっている
対応期限:1~2時間以内
医学的根拠:
└─ 内出血の可能性
見た目では分からない内臓損傷も考慮
対応方法:
└─ 即座に病院で検査
外傷後24時間は要注意
眼の異常
症状:目が開かない、充血が強い、分泌物が多い
対応期限:1~2時間以内
医学的根拠:
└─ 角膜潰瘍、緑内障など
数時間で失明のリスク
対応方法:
└─ 即座に眼科対応できる病院へ
呼吸・心臓の異常(明らかだが停止していない)
症状:息が極度に速い(正常の倍以上)
呼吸が浅い、ゼーゼーという音
対応期限:1~2時間以内
医学的根拠:
└─ 肺炎、心臓病、気胸など
酸素不足が急速に進行中
対応方法:
└─ 即座に病院へ
移動中も呼吸を注視
4.翌日の診察で対応可能な症状

緊急性は低いですが、数日以内の診察は推奨します。
軽度の消化器症状
症状:1~2回の嘔吐、やや柔らかい便
元気がある、食欲がある
対応:
└─ 翌日の診察予約で問題なし
対応方法:
└─ その夜は絶食、水も少量のみ
症状が悪化したら即座に相談
軽度の皮膚症状
症状:痒み、小さな発疹
脱毛が限定的
対応:
└─ 数日以内の診察で十分
対応方法:
└─ 患部は清潔に保つ
自分で引っかかせないよう注意
軽度の行動異常
症状:いつもより元気がない、寝ている時間が長い
食欲がやや低下
対応:
└─ 翌日~数日以内の診察
対応方法:
└─ 様子を見ながら観察
症状が悪化したら即座に相談
軽微な外傷
症状:小さな傷、軽微な出血
元気がある
対応:
└─ 翌日の診察で確認
対応方法:
└─ 清潔に保ち、化膿を予防
5.症状別の医学的背景
なぜその症状が危険なのか:詳しい解説
症状により危険度が異なるのは、その背後にある生理学的な理由があります。
嘔吐の医学的背景
軽度の嘔吐(1~2回)
└─ 軽い胃の不快感程度
様子を見ても問題ない場合が多い
中等度の嘔吐(3~5回)
└─ 脱水の危険が高まる
原因確定が必要
翌日には対応すべき
重度の嘔吐(5回以上、持続的)
└─ 脱水が急速に進行
電解質異常が発生
12時間以内に重篤化する可能性
即座の対応が必須
嘔吐の背景疾患:
└─ 軽度:一過性胃腸炎
中等度:胃腸感染症、食物不耐性
重度:腸閉塞、膵炎、中毒
判定のコツ:
嘔吐の回数 + 水分摂取の可否 + 元気の有無
この3つで重要度が決まる
呼吸異常の医学的背景
正常な呼吸:
肋骨がやや動く程度
呼吸音は聞こえない
回数:犬は15~30回/分、猫は20~40回/分
軽度の呼吸異常:
やや速い(1.5倍程度)
原因:運動後、興奮、軽い不安
中等度の呼吸異常:
極度に速い(2倍以上)
肋骨が大きく動く
原因:肺炎、心臓病初期、疼痛
重度の呼吸異常:
呼吸音が聞こえる
張り詰めた感じ
原因:肺炎重度、気胸、心肺停止前
判定のコツ:
呼吸の速さだけでなく「苦しそうか」が重要
安静時でも息が上がっている → 即座に相談
6.深夜・休日の判断フローチャート

症状を確認したら、このフローを使用してください
【ペットに異常に気づいた】
↓
【黄金の3分間の評価】
意識の確認 → 呼吸の確認 → 脈の確認 → 体温確認
いずれか1つが異常 → 即座に救急対応
すべて正常 → 次へ
↓
【症状の重要度判定】
大量出血している?
→ YES:即座に救急対応
→ NO:次へ
けいれんが止まらない?
→ YES:即座に救急対応
→ NO:次へ
呼吸ができていない、またはチアノーゼがある?
→ YES:即座に救急対応
→ NO:次へ
嘔吐が止まらない、水も飲めない?
→ YES:1~2時間以内に来院
→ NO:次へ
排尿ができない(オス猫など)?
→ YES:即座に救急対応
→ NO:次へ
異常な行動、著しい意識障害?
→ YES:即座に救急対応
→ NO:次へ
↓
【判定結果に基づく対応】
即座に救急対応:
└─ 躊躇わずに最寄りの救急病院へ
1~2時間以内に来院:
└─ 営業時間内なら病院へ急行
営業時間外なら救急相談
翌日以降:
└─ 通常の診察予約で対応
7.飼い主様への情報発信方法

ホームページの「緊急時対応」ページ
【掲載内容】
- このチェックリストの全内容
- 救急病院の連絡先
└─ 当院の救急対応可能時間
提携している救急病院リスト
- よくある質問への回答
例:「深夜に嘔吐したが、朝まで待てるか」
「軽い下痢だが、来院すべきか」
- 夜間相談電話番号
└─ 獣医師による電話相談受付
初診時の情報提供
【新規患者様への配布物】
- 「緊急時判断ガイド」パンフレット
└─ A5サイズ、見やすいフォーマット
- 救急病院の連絡先カード
└─ ポケットサイズで携帯可能
- LINEの友達追加案内
└─ 24時間相談可能なシステムの周知
LINE公式アカウントでの24時間相談体制
【LINE機能】
- 症状入力フォーム
└─ ユーザーが症状を入力すると
自動で緊急度が判定される
- AIによる初期判定
└─ 医師の確認前に
「即座に来院」「翌日で可」などを表示
- 医師への直接相談
└─ AIの判定後、
医師の確認が必要な場合は
医師が対応
- まとめ
緊急度の判定の本質
深夜・休日の判断で最も重要なのは、以下の3つです。
【生命に直結する症状か】
└─ 即座に救急対応
【進行が急速か】
└─ 1~2時間以内の対応が必須
【待てるか】
└─ 翌日で対応可能
飼い主様へのメッセージ
「不安を感じたら、躊躇わずに相談してください。
このチェックリストは、
『判断の手助け』です。
『即座に来院』と判定されたら、
迷わず救急対応を選択してください。
命を救うのは、
『この判断の速さ』です。」
動物病院の責任と信頼構築
24時間対応できない動物病院でも、
適切な情報提供により、
飼い主様は正しい判断ができます。
結果として:
- 必要な患者が適切に救急対応される
- 不要な夜間対応が減少
- 飼い主様の信頼が向上
このバランスを取ることが、
動物病院の責任です。
本記事を参考に
動物病院経営ラボでは、緊急時対応の周知に関する、
緊急度判定チェックリストの印刷物設計 ホームページの「緊急時対応ガイド」ページ制作 LINE公式アカウントの自動判定ボット構築 初診時配布用パンフレット作成 24時間相談体制の構築サポート
などのサポートを提供いたします。
うちの病院も緊急時の対応体制を明確にしたい 飼い主様への情報提供を強化したい 深夜の不要な相談を減らしたい
このようなご相談は、ぜひお気軽にお寄せください。
飼い主様が適切な判断をできるようにサポートし、 同時に動物病院の負担を軽減し、 必要な患者様が適切に対応される環境を構築する、 戦略的なコンテンツ制作・情報発信サポートを、 全力でさせていただきます。
