「Google マップで星1つのレビューが投稿されました」
動物病院の経営者がこのような通知を受けたとき、多くの人は強いストレスを感じます。そして、その後の対応が実は極めて重要なのです。
ネガティブなレビューが投稿されたとき、病院が取る選択肢は大きく分けて2つです。一つは「無視する」こと。もう一つは「対応する」こと。実は、多くの病院が「無視」を選択してしまい、その結果として「負のスパイラル」に陥ってしまっているのです。
ネガティブなレビューが放置されると、新しい患者様が病院を検索した時に、まず目に入るのは「悪い評判」です。その悪い評判に対して病院が何も応答していない状態を見ると、潜在的な患者様は「この病院は、患者様の声に向き合わない病院」という印象を持ってしまいます。
しかし、実はネガティブレビューは「危機ではなく、機会」なのです。適切に対応できれば、そのレビューは「病院の信頼性を高める」ツールに変わるのです。
本記事では、ネガティブレビューに直面した時、どのように対応すれば「負のスパイラル」から脱出できるのか、具体的なフローと実例を示します。
目次
- ネガティブレビューが生じる構造と背景
- 負のスパイラルのメカニズム
- ネガティブレビューへの「適切な返信」の5つのポイント
- 改善策の「可視化」がもたらす信頼回復
- 実例:失敗パターンと成功パターン
- 組織的な対応体制の構築
- まとめ
1. ネガティブレビューが生じる構造と背景

ネガティブレビューが投稿される真の理由
ネガティブレビューが投稿されるのは、単に「医療の質が悪かった」という理由だけではありません。むしろ、その背後には「コミュニケーション不足」「期待値のズレ」「対応のまずさ」といった要因が隠れていることが多いのです。
動物病院の場合、飼い主様は「自分のペットの命」を病院に預けます。その緊張感の中で、医師の一言、スタッフの態度、診察の流れ—これらすべてが、飼い主様の「満足度」に大きく影響するのです。
例えば、医師が診察の理由を詳しく説明しなかったために、飼い主様が「あの医師は話を聞いてくれなかった」と感じてしまう。スタッフが忙しそうで、飼い主様の質問に丁寧に答えられなかった。会計時に料金の説明が不十分だった—こうした「些細に見える対応のズレ」が、実は「ネガティブレビューの引き金」になるのです。
ネガティブレビューの背後にある飼い主様の心理
重要な理解は「ネガティブレビューを投稿する人は、実は『その病院に期待していた人』」ということです。期待がなければ、そもそもレビューを投稿する気力も生じません。
むしろ、ネガティブレビューを投稿する飼い主様は「この病院、もしかしたら改善してくれるのでは?」という微かな期待を持ちながら、苦情を「公開」しているのです。その心理を理解することが、対応の第一歩になります。
2.負のスパイラルのメカニズム

ネガティブレビューが増加する流れ
最初のネガティブレビューが投稿された時点では、実はまだ問題は限定的です。しかし、その後の対応が不適切だと、負のスパイラルが加速し始めます。
【負のスパイラルの流れ】
ネガティブレビューが投稿される
↓
病院が返信しない、または不適切な返信をする
↓
潜在的な患者様が見た時、
「この病院は、患者様の声に向き合わない」
という印象を形成
↓
新規患者の獲得が減少
↓
経営の厳しさから、対応品質がさらに低下
↓
ネガティブレビューがさらに増加
↓
負のスパイラルが加速
このメカニズムを理解することが重要です。最初のネガティブレビューへの「誠実で適切な対応」が、その後の運命を大きく左右するのです。
「無視」することの代価
ネガティブレビューに対して何も返信しない場合、そのレビューはGoogleの検索結果に「永遠に表示され続ける」ことになります。
新しく病院を探している潜在的な患者様は「〇〇動物病院」で検索した時、まず見るのは「星評価」と「最新のレビュー」です。その時に「星1つのネガティブレビューが、3年前から放置されたままになっている」という状態を見たら、どう判断するでしょうか。
潜在的な患者様の心理:「この病院は、評判が悪いだけでなく、患者様のフィードバックに対応していない。つまり、改善する気がない病院」
この判断が、新規患者の喪失につながるのです。
3. ネガティブレビューへの「適切な返信」の5つのポイント

ポイント1:「迅速性」—できれば24時間以内に返信する
ネガティブレビューが投稿されてから、1週間経ってから返信すると「後手に回っている」という印象が残ります。理想的には「24時間以内」、遅くとも「48時間以内」に返信することが、対応の姿勢を示します。
迅速な返信は「このレビューを真摯に受け止めています」というメッセージを、他の潜在的な患者様に対して発信するのです。
ポイント2:「謝意」—まず「貴重なご指摘ありがとうございます」から始まる
ネガティブレビューに対して防御的に応答してはいけません。むしろ「このご指摘は、私たちが改善するための貴重な機会です」という姿勢で応答することが重要です。
返信の最初は「貴重なご意見をお寄せいただき、ありがとうございます」という謝意から始まることが、飼い主様の心を開きます。同時に、他の潜在的な患者様も「あ、この病院は患者様の声を大切にしている」と感じるのです。
ポイント3:「共感」—飼い主様の不快感や心配を明確に理解する
返信の次のステップは「飼い主様がどのような不快感や心配を感じたのか」を言語化することです。
例えば、レビューが「医師が十分に説明してくれなかった」という内容であれば、返信は「ご指摘の通り、医師の説明が不十分だったようで、申し訳ございません。患者様がご不安だったことと思います」と、飼い主様の感情を反映した言葉を選ぶのです。
この「共感」が伝わると、飼い主様は「あ、この病院は自分たちの気持ちを理解している」と感じ、その後の対話が可能になるのです。
ポイント4:「具体的な改善策」—漠然とした謝罪ではなく、実行計画を示す
「申し訳ございません。今後、気をつけます」という漠然とした返信では、他の潜在的な患者様も「本当に改善するのだろうか」という疑問を持ったままになります。
重要なのは「具体的に何をしたのか」「今後どのように改善するのか」を示すことです。
【改善策の記述例】
ご指摘ありがとうございます。
ご体験された通り、医師の説明が不十分でした。
改善策として、以下を実施いたします:
- 診察時間に余裕を持たせ、丁寧な説明を心がける
- 飼い主様からのご質問に対して、
すべてのご質問にお答えする体制を構築
- 診察後に「ご不明な点はございませんか」
という確認を必ず実施
これらにより、同様のご指摘を
いただかないよう改善いたします。
この具体性が、他の潜在的な患者様に「この病院は、本気で改善しようとしている」というメッセージを伝えるのです。
ポイント5:「対話への招待」—一方的な返信で終わらせない
返信の最後に「もしご質問やご不明な点がございましたら、お気軽にお問い合わせください」というメッセージを加えることで、飼い主様との「対話」への道を開きます。
多くの場合、飼い主様はこのメッセージに対して直接連絡をしてくることはありませんが、他の潜在的な患者様は「あ、この病院は患者様との対話を大切にしている」と感じるのです。
4.改善策の「可視化」がもたらす信頼回復

改善策を「宣言」することの力
ネガティブレビューへの返信で「改善する」と宣言したら、その後、実際に「改善されたこと」を可視化することが極めて重要です。
なぜなら、潜在的な患者様は「本当に改善したのだろうか」という懐疑心を持ちながら、その後のホームページやレビューを見ているからです。
改善策の可視化の具体例
ホームページへの「改善報告」の掲載
返信で「改善する」と宣言したら、その1ヶ月後に、ホームページに「患者様からのご指摘に基づく改善のご報告」というコンテンツを掲載します。
【ホームページ掲載例】
先月、患者様からご指摘いただいた
「診察時の説明が不十分」という点について、
以下の改善を実施いたしました。
【実施した改善策】
- 診察時間枠を見直し、
各患者様に充分な説明時間を確保
- 医師から飼い主様へのご質問の時間を
診察時間の30%に設定
- 診察後、すべての飼い主様に対して
「ご質問やご不明な点はありませんか」
と確認することを標準化
【実施の成果】
この改善により、患者様からの
「説明がわかりやすくなった」という
ご意見が増えてまいりました。
今後も、患者様のご指摘に真摯に向き合い、
サービスの向上に努めてまいります。
このような「改善報告」をホームページに掲載することで、潜在的な患者様は「あ、この病院は本当に改善している」と信頼を回復させるのです。
SNSでの「改善の取り組み」の発信
Facebook や Instagram で「患者様からのご指摘に基づいて、こんな改善をしました」という投稿をすることも効果的です。
単なる「お知らせ」ではなく「患者様との対話の結果として、こういう改善が生じた」というストーリーは、他の患者様にも「この病院は、自分たちの声を大切にしている」というメッセージを伝えるのです。
スタッフ研修の「可視化」
ネガティブレビューが「スタッフの対応の悪さ」を指摘していた場合「スタッフ研修を実施しました」という改善報告をすることも重要です。
可能であれば「〇月〇日、全スタッフを対象に『患者様対応スキル研修』を実施」といった「具体的な日付と内容」を示すことで、改善の「実行性」が伝わるのです。

5.実例:失敗パターンと成功パターン
失敗パターン:防御的な返信
【ネガティブレビューの内容】
「医師の説明が不十分で、不安だった。
スタッフも忙しそうで、
質問に答えてもらえなかった。
二度と行きません。」
星1つ
【失敗な返信例】
「ご指摘ありがとうございます。
弊院では、診察時間内に最善を尽くしています。
時間の制約上、すべてのご質問に
お答えすることが困難な場合があります。
今後の参考にさせていただきます。」
この返信の問題点:
- 防御的で、飼い主様の感情を否定している
- 具体的な改善策がない
- 「時間の制約」を理由に、改善を放棄している
- 他の潜在的な患者様に「この病院は改善する気がない」というメッセージを送っている
成功パターン:共感と改善策を示す返信
【同じネガティブレビューへの成功な返信例】
「貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。
ご指摘の通り、
弊院の説明が不十分だったようで、申し訳ございません。
ペットの健康について、
ご不安だったことと思います。
改善策として、以下を実施いたします:
- 診察予約時間の見直しにより、
各患者様への説明時間を30分に統一
- 医師が診察時に必ず
『ご質問やご不明な点はありますか』
と確認することを標準化
- スタッフの患者様対応研修を実施し、
時間的余裕を持った対応を実現
これらの改善は、すでに実施済みです。
ご指摘いただきた点での改善状況は、
当ホームページでもご報告させていただいています。
本当に貴重なご指摘をいただき、
ありがとうございました。
今後も、患者様のご声を大切にして
参ります。」
この返信の効果:
- 飼い主様の不安を理解し、謝意を示している
- 具体的で実行可能な改善策を示している
- 改善がすでに実施済みであることを示している
- 他の潜在的な患者様に「この病院は本気で改善している」というメッセージを送っている
成功後のその後
返信から1ヶ月後、ホームページに以下のような改善報告を掲載:
【ホームページ改善報告】
先月の患者様からのご指摘により、
以下の改善を実施いたしました。
〇 診察予約枠を見直し、
各患者様に30分の診察時間を確保開始
〇 全スタッフの対応研修を完了
〇 診察後の確認項目を標準化
現在、この改善により
患者様からの「説明がわかりやすくなった」
というご意見が増えてございます。
患者様のご指摘は、
弊院の改善の源泉です。
今後も、皆様のご声に真摯に
向き合ってまいります。
さらに、その後の新しいレビューが投稿された場合、以前のネガティブレビューの「改善報告」が目に留まりやすくなり、潜在的な患者様は「この病院は改善するプロセスを大切にしている」と判断するようになるのです。
6.組織的な対応体制の構築
ネガティブレビュー対応の「体制化」
一度のネガティブレビューへの対応は「一時的な対応」です。重要なのは「組織として、ネガティブレビューに継続的に対応する体制」を構築することです。
【推奨される体制】
役割1:モニター
└─ 毎日、Google マップ、
Googleレビュー、食べログなどを確認
ネガティブレビューがないか監視
役割2:初期対応者
└─ ネガティブレビューが投稿されたら、
48時間以内に初期返信を作成
役割3:改善企画者
└─ 返信で「改善する」と宣言したら、
実際の改善策を企画・実装
役割4:可視化担当者
└─ 改善内容をホームページやSNSで
患者様に報告
これらの役割を「複数人で分担」することで、一人の負担を減らし、継続的な対応が可能になります。
ネガティブレビュー対応の「マニュアル化」
対応を「マニュアル化」することで、誰が対応しても「一定以上のクオリティ」を保証できます。
【返信マニュアルの例】
ステップ1(24時間以内):
迅速な初期返信「貴重なご指摘ありがとうございます」
ステップ2(48時間以内):
詳細な返信「具体的な改善策を記述」
ステップ3(1ヶ月後):
改善報告「ホームページ/SNSで可視化」
ステップ4(3ヶ月後):
フォローアップ「さらに改善した点があれば追加報告」
このマニュアルに沿って対応することで「感情的な返信」や「不適切な返信」を防ぎながら、一貫した品質の対応が実現されます。
7.まとめ
ネガティブレビューは「危機ではなく機会」
ネガティブレビューが投稿されることは、確かに不快です。しかし、その対応が適切であれば、むしろ「病院の信頼性を高める」ツールに変わるのです。
潜在的な患者様は「完璧な病院」を探しているのではなく「患者様の声に真摯に向き合う病院」を探しているのです。その姿勢を示す最高の舞台が、実は「ネガティブレビューへの適切な対応」なのです。
「負のスパイラル」から「正のスパイラル」へ
ネガティブレビューに対して適切に対応し、改善を可視化することで「正のスパイラル」が始まります。
患者様からのご指摘→迅速で誠実な対応→改善の実施→改善の可視化→潜在的な患者様の信頼向上→新規患者の増加→組織全体の改善文化の醸成
このスパイラルが回り始めると、動物病院全体の品質が段階的に向上し、その結果としてネガティブレビュー自体が減少していくのです。
「患者様のご声」を受け入れる姿勢
最も重要なことは「ネガティブレビューを、患者様からの『改善のご提案』として受け入れる」という心持ちです。
その姿勢が伝わると、患者様だけでなく、スタッフも「患者様を大切にする組織」という認識を持つようになり、全体的な対応品質が向上するのです。
本記事を参考に
動物病院経営ラボでは、ネガティブレビュー対応と改善策の可視化について、
ネガティブレビュー対応マニュアルの作成 返信テンプレートの設計 改善策の企画と実装支援 ホームページの改善報告コンテンツ制作 SNS での改善情報発信戦略 対応体制の構築支援 月単位での対応状況レポート
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